映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

青山真治監督「共喰い」702本目

一番印象に残るのは、(連ドラ「ごちそうさん」で主人公の長男をさわやかに演じた)菅田将暉の魅力。
その次に、木下美咲が演じる、女のしぶとさ。同じものを、仁子=田中裕子も琴子=篠原友希子も持っています。
光石研演じる暴力夫は、映画のなかでは怪獣のように大きくて絶対的な悪のように感じられるけど、見終わってしまうと、通り過ぎただけの嵐のよう。

変わったことなど何もない、新しい人もやってこない、静まったままの海辺の町で、手当たり次第に女を殴りながら抱く男が、主人公の父親。こういう小さい町でこんな男の妻や愛人をやっていると、どこへも逃げられないと思って追い詰められてしまうんじゃないかと思うけど、妻も愛人も、息子の彼女も、「それでも生きていく」というような強いまなざしを持っています。
設定は一見、「閉塞的な田舎町で起こったギリギリの犯罪」なんだけど、情感に訴えるのではなく、社会的なメッセージがあるのでもなく、現実に地面を踏みしめて歩いていく女性たちの存在が最後に残ります。
この印象が新鮮です。うん。