映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

松江哲明 監督「フラッシュバック メモリーズ」769本目

人間の体ってのは、音に直接反応するようにできてるんじゃないかと思う、脳を経由せずに。この映画を見ていると、考える前に体が揺れ始めて、字幕を読む前に感情が流れてくるようです。
ブブゼラ、じゃなくてディジュリドゥという長ーい楽器。環太平洋ネイティブのアボリジニが1000年も前から吹き鳴らしてきた打楽器のようにパワフルな金管楽器。肺を膨らませて口から息を吹くというより、何かのエネルギーを筒の中に集めて吹き出してるような音色の重低音。
これを吹くミュージシャンが事故で記憶をキープできなくなる。ドキュメンタリーは現在の彼のステージを映しながら、過去の写真やライブ映像で彼のいままでの歴史をたどる。よくこんなに映像でとってあったもんだ。

ミュージシャンを中心に据えた、ずっと楽曲が鳴り続けている映画は昔からあって、珍しいわけではないのに、話し言葉でできた映画を見慣れすぎていて、まるで初めてこういうものを見たような新しさを感じてしまいます。
人間そのもののような、すごい楽器だ。
彼はこれからも自分のような楽器をずっと吹いていくんだろう。
見て良かったです。この映画。