映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スティーヴン・ダルドリー 監督「めぐり会う時間たち」792本目

監督の名前聞いたことあるなと思ったら、「リトル・ダンサー」と「愛を読む人」、「ものすごくうるさく、ありえないほど近い」か。人の痛みを痛いまま描く監督だ。美しいまま描く監督だ。

この映画は、すうっと入ってきて私の胸も苦しくなった。人が自分で死を選ぶまでの起承転結、論理的納得を求める人には意味のわからない映画だろうけど、そういう人、そういう状態もあると思っている人には、一線を踏み越える直前と直後の瀬戸際が2時間近く続く、息詰まるような時間なわけです。

そういうおそろしく繊細な感覚、これはいったい、と思ったら、監督はバイセクシュアルだと解説にある。男性同士のホモセクシュアルはわりあい、認めると認めないとに関わらず、比較的見慣れてきた今日このごろだと思うけど、妻や夫がいる者が、おおっぴらにしろ隠れてにしろ、同性の友人を愛するということは、どんな痛みを伴うんだろう。同性に走られた、残された配偶者は。いろいろな無力感が彼女をなにもできない人にしてしまうんだろうか。自分が誰かを愛することで、愛する別の人を取り返しのつかないほど傷つけてしまうということ。大切な夫や妻や子供のもとを去ると決める気持ち。母が壊れていくのを見ているしかない子供。

とにかく悲しくてたまらない映画でした。胸を引き裂かれるんじゃなくて、静かに涙が出るような。
そしてなんとなく見た後1日元気がでない、感じ。

それにしても、置いていかれる人々も含めて、役者さんたちが皆すばらしいです。この映画には賞をあげたい、と私なら思います。