映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マイク・ニコルズ 監督「卒業」793本目

子供の頃から、40年以上も前から知っていたのに初めて見る映画。わくわく。
1967年の映画にしては現代的。70年代映画の雰囲気だなぁ。
このとき30歳のダスティン・ホフマンが20歳のスター学生ベンジャミンを演じています。今だったらマーク・ザッカーバーグをやっただろうという、知的な若者の風貌。

面白いくらい手玉に取られていく、純情で朴訥な青年。。。
露骨なベッドシーンなどなく、マンガみたいにテンポよく、どんどん場面が変わっていきます。
その一方で、ベンジャミンの顔のアップを長写しするのが多かったりします。無表情の奥に若さゆえの不安や虚しさが感じられます。
知らない人はいないほどのサイモン&ガーファンクルの音楽。これがこんな風に使われてるのは意外。
音楽のイメージが静かだしフォーク調なので、草原を走る恋人たちとか、なにかそういう牧歌的?な場面のBGMとして使われているのかと思ったら、ベンジャミンの行動のナレーションのように歌詞を聞かせています。その間セリフなしで曲だけが流れるという、ミュージカルのような状態。かなり斬新です。そうとう違和感があって笑ってしまう。

それからタイトルは「卒業」=graduationではなくて「卒業生」=graduateでした。在学中に不倫して卒業と同時に結婚式に突入するのかと思ってたら、大学は出たものの・・・という映画だったということです。

ミセス・ロビンソンの悪女っぷりがすばらしい。こんな悪い熟女に誘惑されたら、ピカピカの若者なんてひとたまりもないでしょうよ、と完全に納得させられます。

後半、自分の愛する人が誰か気づいた彼は、饒舌で押しの強い、ダスティン・ホフマンらしい男へと変貌していきます。こうなると根が朴訥なだけに猪突猛進、周囲を巻き込んで無軌道な若者と化していきます、アメリカンニューシネマ的な。優等生が無精髭生やして、大声出して、神と因習と常識を蹴飛ばして、本当に自分がやりたいことをつかんでいくということが、それに伴う苦しみや痛みも含めて、やはり痛快です。最後の最後の二人が我に返ったときの表情がいいですね。

思っていたより斬新で、びっくりするような印象的な映画でした。こういう映画は、その時代にしか作れなかったんじゃないかな。