映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

黒澤明監督「どん底」812本目

1957年の作品。

こういうわりあい地味な黒澤作品が好きです。
うわ〜!と思うくらいボロボロなあばら家に暮らす男たちと女たち。大家とそのべっぴんさんの姪御たち。
こういうのを赤貧っていうんでしょうか。
今みたいに、全員とりあえず中学までは行けて、奨学金をもらえるくらい賢ければ大逆転・・・なんてことは考えられない。

これでも酒飲みに行ったりするし、暮らせないわけじゃないんだなぁ。とか思ってしまったりもします。
いっぱい管をつながれて病院で延命治療されるより、みんなの家で天命を待つのも悪くないかも、とか。
ミニマルといえば正にミニマル。無駄という無駄をすべてそぎ落とした生活。(必要なものもないけど)

三井弘次 がこの映画でも素敵すぎます。
酒飲んでピーヒャラピーヒャラと口ばりで吹く横笛。なんてクールな、貧者のヒューマン・ビートボックス!
この辺がふしぎとリアルで、日本の人たちは昔からお金がなければないなりに、楽しみを見つけてきたんだろうなぁと思う。
最初は、もしやこれはタル・ベーラニーチェの馬」の元ネタ!?と思うほど枯れた映画に見えたけど、半分死んでいるかのような彼らから湧き出すビートの愉快なことといったら。

そして、寿老人のような左卜全は、どうも見たところ人を二人殺してるように見える。もう一人も死に追いやったと言えるかもしれない。あるいは死神か何かなのか。そんな不思議さも、この映画の魅力です。

こういう、人間の底力を垣間見るような映画って好きだなぁ。
それにしても三井弘次、何十年か前に生まれて結婚したかったくらい素敵でした・・。