映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

内田吐夢 監督「浪花の恋の物語」817本目

ものすごく良くできた作品でした。
古典を、作られた古臭い作品として再現するのではなく、人形浄瑠璃の舞台を見ている近松を冒頭に配することで、今起こりつつある事件を、たまたま劇作家が書き留めただけなのだ、と表現する。観客は近松とともに事件のなりゆきを息をのんで見守り、最後に浄瑠璃となったその事件を一緒に観劇して涙する。・・・観客の期待の裏をかく、きわめてクレバーな構成です。

役者さんのすばらしさも必見。
中村(萬屋錦之助ってこんなに美しい青年だったんですね。有馬稲子もおっとりとして優しげです。
二人の純朴さ、おろかさに、胸が苦しくなります。
・・・え、この二人このあと本当に結婚したんですか。で数年で離婚したんですね。そういうもんなのかもしれまへんな・・・。

片岡千恵蔵演じる近松も、深い人間愛を感じさせる重厚さ。
しっかり者で厳しい飛脚問屋の大女将を演じるのは田中絹代。この存在感。
お歯黒でチャキチャキっとした関西弁の浪花千栄子もすごい。
全編を通じて、温もりがあふれています。愚かな罪を犯した二人を責めたり、嘲笑したりするものはどこにもありません。暖かい手で包み込まれたような気持ちになりますね。今の歌舞伎をライブで見に行っても、ここまでの人間愛を感じたことはないです。

期待しないで見てこういう作品に出会えるのがすごいよ、BSプレミアム