映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アブデラティフ・ケシシュ 監督「アデル、ブルーは熱い色」853本目

この映画は、映画館で見てよかった。
大きいスクリーンいっぱいの二人の身体から、汗の匂いまで漂ってくるようだったし、会場全体が息をつめて別れや再会のシーンを見守っている感じは、名作を劇場で見る醍醐味ですね。

恋愛という経験をきわめて精緻に描いた映画でした。
人の心が恋をして、そのことによって高揚し、体が結びついても精神がひとつにはなれないことでかえって孤独にさいなまれ、失って行き場をなくし、そして・・・(その先は描かれていない)

二人の女優が本当に奇跡的に素晴らしくて、彼女たちにもパルムドールを与えたのはすごい英断だなと思います。
どうやったらあんなに純粋に、アデルとエマになれるんだろう?
彼女たちは確かにあのとき、普通の女子高生とちょっととんがった美大生だった。彼女たちは確かに愛し合ってた。彼女たちは確かに愛を見失っていった。

答えを見せるようなエンディングにしなくて本当によかった。
最後に、あのスタントマンがきっと出てきて何かの救いのきっかけを与える、と予想していたけど、安易に彼とくっついたり、安易に彼が彼女を見つけたりしなくてよかった。私自身、(幸せにしてあげて。でもそうならないと思うけど)という気持ちでした。

もっと早く、世界がこの年のカンヌで沸いてるときに見て、世界中の人たちともっと感動を共有したかったなぁ。

このときのこの人たちにしか撮れない映画だと思います。
ずっと大切に見続けられるといいな。