映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アリ・フォルマン 監督「戦場でワルツを」871本目

ネットで評判を見ると、日本国内だけでも事実に沿っていないとかプロパガンダだという批判的な感想がけっこうあるけど、私は秀逸な作品だと思いました。

アニメーションの力。実写のドキュメンタリーを見ても、監督の恣意をかならず感じる。アニメーションにすることで、現実から離れた寓話にできる、と思います。寓話になったおかげで、現実のxx軍やなんとかさんを離れて”戦争というもの”の全体が見やすくなる。ひとりひとりの兵士が特別じゃない、昨日までその辺にいた青年が唐突にしの恐怖の真っ只中に放り出されて何をするか、というリアリティを見せつけられないと、勝っても負けても本当に戦争が恐ろしいということが実感できない。

そういう意味で音楽も素晴らしいと思います。
あの戦争やその戦争を歌ったポピュラーソングが、たくさん流れていた。普段の生活の中でその曲を何の気なしに聴いていた自分がその瞬間映画の中にいるように思えて、背筋がひやっとする。
OMDの「エノラ・ゲイ」は、この曲で原爆を落とした飛行機の名前を知ったし、P.I.L.の「This is not a love song」は何十年ぶりかに聴いて、ああこんなふうにクラブで流れてたんだろうかと思った。

最後の実写にはぞっとしたけど、メイキング映像のスタッフたちの底抜けの明るさに違和感。重いテーマの作品だから眉間にしわを寄せて作らなきゃいけないと思ってるのは日本人だけなのかしら。

戦場で人が狂っていくのは多分当然なんだろう。戦争をしたい人間がいなくなる日は来ないのかもしれない。
だからこそ、こういう映画をみんな見て、ぞっとしたりドン引きしたりしなきゃ、と思います。