映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

イングマール・ベルイマン監督「夏の遊び」879本目

大監督30代前半の、「第七の封印」や「処女の泉」に至る前の作品。若くてナイーブなヘンリックの伯母が、死神のような姿で現れます。乳がんで余命3ヶ月なのに「私は死なない」と言い切る。マリーも私は死なないと言う。言わなかったヘンリックが死ぬのです。

まだ10代の二人の夏の恋は情熱的で清潔です。でもあちこちに伏線がどっさり仕込んであります。(この監督の映画は2回見なきゃ!と思う)

この映画における教訓はわかりやすく、起承転結もはっきりしています。でも、「今を幸せに生きるのよ」と結論するには、ふくろうの声や夜の気配は不吉すぎました。舞台袖で「今日はいやな予感がする」と言った大道具係の発言は、拾われないままです。

人生は長いけれど、この映画が描いているのは、あるバレエの舞台とその前日のリハーサルという、短い時間だけともいえます。その中でマリーは過去を思い出しながら涙を流し、舞台監督や今のボーイフレンドと会話を交わします。希望をなんとなく感じるけれど、本当にハッピーエンドなのかな?

「白鳥」を踊るバレリーナの姿を見ると、「ブラック・スワン」を思い出します。あの映画も、本番前の短い時間の中に起こるスターの壮絶な葛藤を描いていました。バレエの舞台って本当に美しくて、でも人間のふつうの動きではない踊りを見ているとなにか残酷なことをしているような気持ちにもなります。

マリーはこの舞台の後どうなったんだろう。仕事をすっぱりやめて彼氏と結婚?逆に彼氏が黙って去って、ずっとバレエを続ける?
不思議なモヤモヤが残るのでした。