映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アルフレッド・ヒッチコック監督「海外特派員」1067本目

これは面白かった!
ヒッチコックの渡米第2作。イギリスの開戦前夜(文字通り)に行われたという設定のスパイとの攻防を、非常に迫力のある映像で描いています。ただし”アメリカ礼賛!!”で終わりますが。(鷹の銅像で国家だよ!)

それにしてもすごいタイミングです。第二次世界大戦そのものが始まったのは1939年、イギリスとドイツは開戦時に戦っていたわけですが、アメリカ参戦は1941年。つまりこの映画は、大戦開始後にイギリスから渡米したヒッチコックが、アメリカの参戦前の隙間に作った作品。”参戦しないアメリカは素晴らしい”という明確なプロパガンダが、今はフィクションのように響きます。

スパイ映画ってゴマンとあるけど、この映画は向こう見ずな新聞記者、純真で美しいヒロイン、策略にまみれたスパイ、といった人々が繰り広げる攻防だけでなく、すでに参戦中の第三国(ていうかドイツ)から、まさかの旅客機の攻撃、シケの海に墜落して命からがら救出、という、ヒッチコック映画としては相当なアクションが見ものです。風車小屋に潜入した主人公がコートの裾を歯車に巻き込まれたり…教会の展望台で突き落とされそうになったり…という、その後の作品を思わせる仕掛けが次から次へと惜しげもなく披露されます。なんだこのお得感??

私の苦手な心理的圧迫感はほとんどなく、純粋に楽しめるスリルとサスペンス。ミッションインポッシブル3Dとかは見たけどヒッチコック見たことない、という映画ファンにこそ、お勧めしたい傑作エンタテインメントでした。