映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

市川崑 監督「おとうと」1168本目

1960年の作品。
「銀残し」っていうんですか?
空の色が「にび色」みたいで、晴れているはずなのに真っ暗だったり、病室の壁の色が闇に溶けていきそうだったりして、登場人物(特に、若くて鼻っ柱の強い岸恵子!)は元気なのに、なにか暗い思い出のような色彩でした。
「セピア」とは違って、ノスタルジックな甘さがない。ただ、暗いといっても悪を感じさせる黒さでもない。
昔の映画のポスターのような色合い。色褪せたのか?それとも、もともとあんな色合いだったのか?

川口浩演じる弟は、やんちゃで甘えん坊でちょっといい男。
姉はダメな弟を叱ったり助けたり、どんな時も彼のために生きているようです。弟がどんなに具合が悪くなっても、徹頭徹尾明るく振る舞い、彼に尽くし続けます。こと切れる弟を見届けた途端に卒倒して倒れてしまうけれど、次の場面ではまた立ち上がって忙しく家の世話をしている。これが、なんともリアルで切ない。

姉が泣いたりしないところが切ないんだよね。
本当はなにかの節に涙ぐんだりしたのかもしれないけど、ねずみ色の暗い画面の中で、彼女はいつも強く明るい。
息子の顔を見てしばらくして、耐えきれずに病室を後にする父。
不自由な体を押して会いに来る義理の母。
バラバラだった家族が、彼のおかげでやがて一つになるのも、なんともいえません。
死にゆく人は透き通るように汚れなくて、周囲の人たちの心も洗い流されていくようです。

フィクションだけど本当の物語でした。