映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

荒井晴彦 監督「この国の空」1245本目

おもしろいね、結局この作品は、性愛の物語なんだな。終わりかけている戦争は、強力な背景でしかない。
熟れたトマトを差し出して「今食べて。」だけでなく、何もかもがフロイトにでも言わせれば性的なものを表しているくらい言いそうな様子。
もっともっと、たとえば熟れたトマトを大写しにすると表面に露が流れるとか、イヤらしい映像表現もできただろうけど、一見すごく乾いてる。

誰かを好きになると、意味のないトマトなんかを持ち出したりして、夜中にその人を起こしに行ってしまったりする。蚊取り線香をつけに立った男が、もう戻ってこないんじゃないかと不安になる。そういうばかみたいで止められないことが、恋愛というか性愛なんだよな。

原作もいいんだろうけど、脚本にそういう情感があふれていて良いですね。
役者さんも皆良いです。なんだかんだ言って助平な38歳に長谷川博己二階堂ふみはウブな子どもを演じるときの、棒読みだけど胸のなかは欲望と混乱に満ちてる彼女だ。わかっていて娘を男のもとに行かせる、工藤夕貴演じる母。やたらネガティブに陥ってる富田靖子演じる叔母。
濃い演技で、この先彼女らがどうなっていくんだろう?という含みも残しました。