映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

イ・チャンドン 監督「ペパーミント・キャンディ」1371本目

<ネタバレ的なコメント>
モニカ・ベルッチが出てた「アレックス」って映画みたいだ。一番悪い現在の場面から、少しずつ、少しずつ、時間を遡っていく。最後に映るのが、最高に幸せな瞬間・・・という構成。
アレックスでは、見ている自分も”実際は逆に流れた時間を遡ってたどっている”感じがあったけど、この映画では、映画の構成としての時間の流れがありながらも、役者と私たちはリアルタイムで時間をたどってるような感じがあった。たとえば、最後の若いころのキャンプの場面で、役者も私たちも、「この頃に本当に戻れたらどんなにいいだろう」と思って涙を流している、そういうこと。若き日を懐かしむ老人たちなんです、私たちみんな。アレックスの最後の場面は、みんな無邪気で、”悪い予感のかけらもない”。それぞれの映画の監督の意図が、興味深いです。

そして改めて、韓国の監督って、「どうしようもない悲しみを耐えること」を描くのがほんとうにうまいと思う。人が絶望に達するまでに、劇的な何かではなくて、少しずつ積み重なっていく、消えない痛みがあるっていう。
監督じゃなくてプロデュースだけど、「私の少女」も切なさがほとばしる作品でした。しかし両方とも、いまひとつ日本では見る人が少ないような気がする。

「ペパーミントキャンディ」の、ちょっとおしゃれな横文字だけど、安くて甘ったるい感じも、切ない。
いろんな場面で、何度も何度も、通り過ぎる電車が登場する。
二回見ると、倍せつない。はぁ。