映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョン・ヒューストン 監督「ザ・デッド <ダブリン市民>より」1591本目

1987年の、アメリカ映画!
アイルランド映画かと思ったら違った。83分と短いのは英国的だし、確かにアイルランド訛りではないなと思ったけど、英国的だけど少し違う感じがアイルランドなんだと思ったのに。

アンジェリカ・ヒューストンは見てすぐに「アダムスファミリー」のお母さんだと思った。でもその印象を引きずることなく、優雅な淑女として映画の流れになっていきます。

英文学専攻だったけど恥ずかしながらジョイスを読んだことはほとんどなく、「ダブリナーズ」は文庫本も原書も家のどこかにあるのに映画が初見です。不思議な構成ですね。ダブリンの上流家庭のちょっとしたパーティが賑やかに(人数は多くないけど)執り行われ、招かれた夫婦の妻の方は、誰かが余興で歌った歌に一人涙する。帰宅後夫が問いただすと、少女の頃の若くして亡くなった恋人がかつて歌った歌だという。パーティの席上でも、亡くなった友人を悼む言葉があり、パーティが終わっても妻は死んだものを連れて帰ってきてしまった。

死んだ人には誰も勝てない。このテーマは「さざなみ」では増幅されていたけど、この映画はまさに短編小説みたいなもので、普通の楽しいパーティがいきなり暗転してそのまま幕が降りるようなコンパクトさが、不安を煽るようです。

お屋敷の外にほとんどカメラが出ることのない映画でしたが、大好きなダブリンの街をもっと映して欲しかったな〜。