映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

チャン・フン監督「タクシー運転手 約束は海を越えて」1972本目

「タクシー・ドライバー」といえばクレイジーロバート・デニーロ・・・を思い出すけどこの映画の最初はのんびりしてます。ところがそれば、だんだんと信じられない事態へ。軍事政権下の韓国南部の広州という田舎町で、一般市民による民主化デモが起こり、軍隊による発砲で170人とも言われる学生を中心とした市民が亡くなったという実話に基づく映画です。

どんな背景があるにしろ、自国の軍隊が、地元の一般市民の大勢に発砲して殺害するというのは、どういうことなのか・・・。クーデター、あるいは、内戦だという意識が若い兵士たちにない限り、撃てないと思うんだ。当時のこの国は軍事政権だから、自分たちの所属する政権がおびやかされていると感じられたんだろうか。それとも、高度に訓練された軍人は一般市民を撃てと言われてすぐに撃てるものなのか。

「実話に基づいてる」というので、あれこれ検索してみたら、実はこの主人公の実態は「タクシー運転手」ではなく、ホテルづきのドライバーで以前から民主化活動家と付き合いのあった人らしい。本人が見つからなかったのは、事件の4年後に病没したからだという話もあります。ネット上の情報で、原典はハングルで読めないので、どこまで本当かは私には判断できないのですが・・・。

それにしても恐ろしい話だ。他のタクシーも交えた軍隊とのカーチェイスが嘘っぽいとか(その通りだが)、コミカルにし過ぎてるとか、色々言われてるけど、私が生まれたあとですぐ隣の国でこんな事件が起こっていたというのは恐ろしいです。平和って本当に薄い氷の上を歩くようなものだな・・・。短いニュースだけでは見えてこないことを、時間をかけて調査して取材して、ドキュメンタリーやこういう映画にしてくれている人たちの苦労に感謝します。