映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヴィム・ヴェンダース監督「アメリカの友人」2026本目

1977年のドイツ映画。まだ健在なデニス・ホッパーの、うさん臭さが嬉しい。で、この額縁屋ヨナタンブルーノ・ガンツなんですね?1944年生まれでこのとき33歳。にしては落ち着いてるけど43歳のときの「ベルリン天使の詩」ではさらに圧倒的な静けさがある。54歳のときの「永遠と一日」では瀕死の老人に見えた。60歳の「ヒトラー最期の12日間」はヒトラーが56歳没だから超えてしまってるけど、「永遠と一日」のときより若く見えてる。どこにいても、そこに元からいたように見える。役所広司みたいな、監督が一番欲しいタイプの俳優だろうなぁ。

しかしこの映画は、ヴェンダースっぽい気もしないし典型的なミステリー映画でもなく、どういう風に見ればいいのか難しかった。ストーリーのことをいうと、捕まらないのはせいぜい「ビギナーズラック」で、警察が指紋も押さえていない素人だからだ。こういうときヨーロッパの悪人たちはパッと見、外国人だとわからなくて有利なんだろうな。 

恐ろしく要領の悪いドタバタの殺人、監視カメラに映りまくりの逃亡劇とかは、見ていてドキドキというよりハラハラします。

赤い車、青い上着などカラフルなものがたくさん出てくるけど、全体の色合いがセピア色の昔の写真みたいで、そういうアクセントでもなければまるで白黒映画です。むしろ、冬は日照が弱いとわかっているヨーロッパ北部でこんなに光が弱い季節になぜあえて撮ったのか。その辺は、地味でわびしい空気をかもし出したかった監督の意図なんでしょうね。リプリーはいつも微笑んでるけどヨナタンは北欧の人みたいに笑わない。ヴェンダース監督は人の心の、わびしさの中の強さみたいなものをいつも描こうとしてるんだな、と思います。

ところでビートルズにはたくさん言及されて、ヨナタンはリラックスしてる時に「Drive My Car」などよく口ずさんだりします。ハンブルグが、最初に彼らが頭角を現した街だというのはアメリカ人にもドイツ人にも常識なんだな。

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