ロンドンに滞在した間、テート・ギャラリー(今はテート・ブリテンと名前が変わった)に何度も行くうちにすっかりターナーのファンになってしまった私ですが、若い頃に自分を絶世の美青年として描いた自画像にだまされて、最近まで「素敵、ターナーさま」と大きな勘違いをしていました。そういう人って結構いたんじゃないかと思うので、この映画はターナーが美化しようとした自分の姿を暴いて真実のうす汚いエロオヤジを見せつける、という、ファンには残酷な映画なのです。
ただひたすら汚く、わざと、あえて、美しい部分など一ミリもないかのように描きます。娼婦にポーズを取らせてみたり、船の舳先に体を縛り付けてもらって荒れた海を観察したり、気難しい顔のまま自分の絵画に対しては探求をつづける、やめられない、という芸術家としての純粋な部分も見せますが、そこでも感動はさせない。
「モリのいる場所」も、彼の作品が与える感動とは遠い映画だったけど、これもそれに近いな。映画の製作者は、芸術家の作品より、人間に興味があったんでしょうね、きっと。
彼が描いた海を映像で再現したのを見られたのが、この映画を見たことの最大のポイントだったかな。