映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アン・リー監督「ラスト、コーション」2293本目

最初は美麗なおばさまたちが麻雀卓を囲んでいて、何だこのうるわしい映画は!とひるんだのですが、やがてこれが「ワイルド・スワン」ではなくスパイ映画であることがわかってきます。囲んでる人たちの中に、ひときわ若くて可愛い子がいるなと思ったら、やはり彼女がこの映画の中心人物なのでした。

そしてお相手は御年50近くなったトニー・レオン。すごく若い女の子にモテそうなイケおじになっています。彼女が大学の仲間たちと立ち上げた抗日グループの幼さを見ていると、切なくなります。でももっと大きな組織がちゃんと彼らを監視していた・・・。

抗日グループを抑圧し、攻撃する側の官僚であるトニー・レオンは、彼女に暴力的に欲望をぶつけることでした安らぎが得られない。どこの馬の骨とも知れない彼女に「信じられるのはお前だけだ」と一方的に言って押し倒すのは、信じられるものを必要としている彼の心の叫びであって、彼女のほうに何か信じられる要素があるとも思えない。彼女は、誰にもおもねず取り入らず、ただそこにいるから誤って信じられてしまっただけ。それはスパイとしての在り方だったのに。

しかしトニー・レオンって人は、「愛してる」という演技がすごいなぁ。「ブエノスアイレス」ではレスリー・チャンのことが心底愛しい顔をしていたし、この映画ではタン・ウェイこそが彼の生涯の妻、という顔をしている。

Wikipediaによると、原作では中国のスパイと日本人、近衛文隆がモデルだったそうな。それでは映画にならなかったんだろうな。

鳩の卵のような宝石。

「逃げて・・・」。

なぜ彼女は楽に逝けるクスリを口にしなかったのか。

日本が上海を占領していなければ、とか、戦争や革命はいけない、とか・・・人間ひとりひとりに個性と感情があるかぎり、争いはなくならないと思うけど、なんともいえない気持ち。

彼を逃がした彼女の愛の深さを、彼は一生心に秘め続ける。彼女は彼を助けたことを誰にも知られず、愛を全うした。深い映画だったなぁ・・・。

それにしても衣装やメイクの美しかったこと。似合う体形のうちに着とけばよかった、チャイナドレス・・・。

ラスト、コーション [DVD]

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