映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

石川慶監督「蜜蜂と遠雷」2295本目

原作がすごく好きなので、映画化されると聞いて「ええっマジで」!さっそくすぐに見ましたが、とても丁寧に綺麗に作られた良い映画でした。パンフレットも買っちゃった。小さいころから音楽は好きだったけどクラシックは全く聞かず、パンクとかに流れて今に至ってしまったので、クラシック楽曲のめくるめく楽しみを垣間見せてくれたという意味で、この原作も映画も私にとっては、”初めての出会い”感が強いのです。

まずキャスティングの妙だよね。新人の鈴鹿央士くんは風間塵とほぼ同一人物で、松坂桃李も言われてみればぴったり。松岡茉優もカンの強い天才少女で、森崎ウィンも端正な優等生だ。(「レディ・プレイヤー1」では英語が流暢なのでアメリカ在住の日系人かと思ってた。マサルは「SNS英語術」に出てるG・カズオ・ペニャを勝手にイメージしてましたw)ただ、松岡茉優はピアノに対するコンプレックスがこっちにも伝わってくるところがあったので、「デタラメに弾くのってチョー楽しい!」くらい開き直ってぐいぐい集中してくれても良かったかもなぁ。平田満いい渋いおじさんになったなぁ、臼田あさ美ブルゾンちえみも福島リラも、アンジェイ・ヒラもいい。斉藤由貴はちょっぴりやさぐれてて(私のイメージではふっくらとした中年女の自信や余裕たっぷりなんだけど)、片桐はいりもいいけど彼女の存在感はこの映画を海外に持って行ったときにどう映るか興味津々。・・・という、原作を先に読んでしまった不幸に思い入れを持ってしまった不幸が重なってしまった割にはちゃんと感動できましたよ!

何が素晴らしいかというと、音楽をフィーチャーした映画、「ダブリンの街角で」でも感動したんだけど、無邪気に楽器で遊んでるうちに息が合ってくる瞬間ってやつ。目に見えない、耳に聞こえない、でも起こりつつある化学反応。いくつになっても、まっさらな子どもの心で、そこに音楽を発見する瞬間。世界から音楽を見つける、神様のくれた天国みたいな瞬間。原作の文章表現も素晴らしく感覚的だったけど、そうか映像にはこんな力があるんだ、と映画では気づかされました。雨でじめっとした中庭、青ざめた馬のイメージ。(タルコフスキーか?)原作のイメージと合うかどうかは意見が分かれるかもしれないけど、とても良かったと私は思います。

音楽を演奏する人の、身体能力以外の感受性に差があるなら、聞く人にもいろんな段階があるんだろうか。そう考えると、この映画を楽しむ力も人それぞれなのかもしれないけど、たくさん楽しめた人はよかったね!ってことだな。

ドビュッシー「月の光」は、私が夜に通ってる絵画教室でよく流れてるので、他にほとんど音のしないアトリエで、生徒たちが黙ってめいめいの素材を描き、私も自分の好きな風景や愛猫の絵を描いてるときの静かな夜の気持ちが浮かんできました。サントラも買ってしまいそうだし、長年悪い子の音楽ばっかり聴いてた私がとうとうクラシックへいざなわれてしまったのかもしれません。

8枚組のCDはきっとバカ売れして、プロデューサーはきっと「レコード大賞企画賞」を受賞する予感がします。あと、パンフレットのライターがとても良かったので名前を書いておきます。相田冬二という方です。