映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ 監督「メッセージ」2303本目

2年ぶりに見てみました。

本格的な宇宙SFなのに、戦闘能力ゼロの女性が主役。テーマは、上の自分と違うものたちや、地球外の自分と違うものたちとのコミュニケーション、そして時間というものの既成概念を超えること。未来を見ること、過去を現在のように感じること。というのが頭に残っていて、点数でいうと100点からは遠いのに、この映画が私に残したものは大きかったのです。

中国の総統と彼女が出会う場面、彼女が解読方法を見出す場面を、どうしてももう一度見たかった。なんでこんなに見たかったのかな?予知能力なんて呼ぶと、むしろそれは矮小化されてしまっていて、彼女が受け取った能力で知ることができるのは多分「すべて」。でも本当は人間にも本来、うっすらと少しずつみんなに備わってるものなんじゃないか?泳げないと思っている人が訓練で泳げるようになるようなもので。

私が気になってるのはこの映画そのものというより、未来を見る能力が誰にでもある世界って、どんな世界なの?ということかもしれません。

ばかうけ」形の宇宙船は、モノリスと同じでは「いかにも」すぎるので、ちょっと角を丸めましたっていうイメージかな。原作では形状についてどのくらい細かく書かれてるんだろう。宇宙人の形状は、墨を吐くという伝達方法を用いるためにタコにする必要があったんだろうけど、現実的にもし地球外生命体がいたとしても、猫の形でもタコの形でもコンピュータのキーを打てないし、とがった石を削って武器を作ることさえできない。だから地球と同じ成分が多い星の上で進化する生き物は人間と似た形状になるんじゃないか、という意見に賛成です。あるいは、その後キーもスクリーンも不要になったらどんどん器官が退化してタコになったのか?

それにしても、文字が通じなくてもピクトグラムとかビデオとかを作って自前の装置で上映すれば、私たち地球に来る・・・助けて、そのうち助けられる・・・みたいなことは十分それだけで通じるんじゃないかとも思う。など、何度も見てるとつい細かいことが目に付いてくるんだな・・・

とりあえず原作読みます。作者のテッド・チャンって人もなかなか興味深いです。

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原作読んだので書き足してみます。英語原著なので意味誤解してるところもあるかもしれないけど。(以下すごくネタバレ)

割と根本的なところが原作と映画では大きく違う。大きいところから行くと、宇宙船はほかの場所には来ないし、誰も彼らを攻撃しない。3000年後のことを告げることもないので彼らの目的はわからないままだ。

彼女がヘプタポッドに文字を書いて見せるのはコンピューターと大きなスクリーンであって手書きではない。愛称はアボットコステロではなくFlapperとRaspberryだけど見分けはつかない。娘の死因が違う。

でも、始めも終わりもない書き言葉を持つ異星人の来訪、その言語を習得することで、時制を超えることを知ること。という設定の科学的な美しさは原作のすごいところで、映画でもこの一番重要な部分は生かされてました。この設定は偉大で、さらに別の二次創作がいくらでも出てくるんじゃないかと思うくらいの大発明だと思います。

小説では、彼女の娘に対する独り言と、ヘプタポッド言語解読の思い出が交互に出てきます。面白いのは、“I remember a conversation we'll have when you're in your junior year of high school"みたいな時制がおかしな文章が出てくるところ。「あなたがこの先、高校3年になったときに話すことを思い出してる」と、将来起こることを過去に認識していたことを示してる。

映画のほうの面白いところは、墨を吐き出すことで一気に円形の文章をつづるという方法論とその表現の美しさだなぁ。

地球上のいかなる言語ともまったく違う言語と、それによって表される時間。最初も最後もない円形の書き言語を持つ左右対称の高等生物の文明があり、その文明ではその文字と同様、時間に始まりも終わりもない、つまり時間はつながっているので一度に全体を把握することができる。…映画ではこの肝の部分についてはほのめかすだけで終わってるんだけど、けっこう強く私には届いてました。本の方の感想には「ソラリスを超える戦慄」とか書いてる人もいて、何度も読み返すたびに深まっていきそうなおそろしい中編です。この著者について、もっと調べてみなければ…。 同じ短編集の「Understand」っていう作品も近々映画化されるらしい。(翻訳に不正確なところがあるようなので、難しいけどやっぱり原著いっしょうけんめい読みます)

メッセージ (字幕版)

メッセージ (字幕版)