映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

東海テレビ制作「さよならテレビ」2323本目

このドキュメンタリーはじっさい、テレビ界隈で大いに話題になってるみたいです。ドキュメンタリー系の作品を作る人たちの中には、自分の強い信念に沿った物語を見せようとする人もいれば、とにかく深いところまでもぐって悪い部分を出そうとする人もいる。この番組は、普段ならドラマやバラエティも作るような人たちが作ったんじゃないかなと思う。見せ所とか面白さが価値判断になってるから。でも、テレビの人たちの中には、呆れるくらい「なんでも撮るけど自分自身は絶対に撮られたくない」人って多くて、自分たち自身のドキュメンタリーを作るってタブーみたいな感じがするので、この番組を作ったことそのものが痛快で、そういうのに乗っからないほど旧態依然とした番組制作者は、時代にもうついていけないと思う。

このドキュメンタリーに嘘がないのか?という点は、見る人も作っている人も見られている人も、全員胸に手を当てて考えてみるといいです。自分が人に話すことに嘘は本当にないか?面白く聞かせようとして盛ったり、わりあい大事な細部を端折ったりしてないか?

しない人はいません。ほんとうに嘘をつかない人は嘘をつくことができない人だけ。自分と同じ人間が作ってるんだから、”真実”だけをドキュメンタリーにするなんて神業は誰にもできません。そういう覚悟をしてマス情報を受け取れよ、視聴者が自分で選び取るんだよ、ということをとうとう言ってしまった番組です。究極のネタバレ、手品の種明かしです。

BBCの番組制作者だったケン・ローチは、テレビに飽き足りず外で映画を撮り始めました。あえてドキュメンタリーに行かずフィクションを作り続けてます。是枝監督とかもそう。スポンサーがあれば気を遣うし、なくてもテレビをお茶の間で見る層がお茶の間で見たい番組は、彼らが作りたかったのとは違っていったんだと思います。マスコミは悪だとか洗脳してるとか、彼らより自分が小さいみたいに思って文句を言うのはやめて、つまらないものは見ない(テレビは見ない、ではなく選んで、いいと思うものは見る)っていう人がもっと増えたほうが面白いと思う・・・。