映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

鈴木清順監督「東京流れ者」2330本目

おもしろいなぁ。昔の歌番組みたいな真っ白のスタジオに、ほとんどライティングだけの設定で、主役の渡哲也や妖艶な歌手という設定の松原智恵子が歌う。とても美しいんだけど、リアリティと真逆の方向性が不思議。多摩川?を車で走る場面とか、小さいころに見た仮面ライダーみたいなノリだな。

鈴木清順ときくと大御所になってからの姿が浮かぶけど、この頃はまだ背伸びしてる感じ。一生懸命、ぜいたくな世界を演出してる。昔のヨーロッパの壁画みたいなものが窓や壁に描かれた家なんか、どこが日本映画なの?っていう無国籍ムード。人が刺されたら赤すぎる血がぴゅーっと噴き出す。

蒸気機関車が向かってくる線路の上で追ってに追われるシーンは、なかなか絵としてカッコいいし迫力があったけど、列車が迫ってきたところで・・・全然違う場面に変わってしまった!このつなぎ方はないよなぁ・・・。この監督はストーリーを伝えることの優先順位が低くて、美術や演出でその場の空気を完璧にすることの優先順位が高い、ということがわかる。そういうのが面白い。

他の人の感想を見てみても、ケレン味とか清順節とか、けっこうな言われようで、面白いです。ヤクザ映画に王道があるというべきかどうかもわからないので、これが邪道とも私は思いませんが、なんとなく珍妙な映画であることは確かです。

この時代の若者は、いまの子が自分の将来を悲観して引きこもったり、クラブで合成麻薬をやるように、もの悲しい演歌をバックにヤクザの道に足を踏み入れたりしてたんだろうか。こんなにファッショナブルでスタイリッシュなヤクザなら、むしろ今の子のほうが憧れるんじゃないかな・・・

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