KINENOTEでタイトル「リング」と検索すると2つヒットします。例のシリーズものと、これ。こちらのリングはボクシングのリングと腕輪のダブルミーニングです。
時は1927年。まだまだ無声映画の時代。冒頭の遊園地の描写は、コントラストの強い白黒映像で、ブランコに乗った女性の視点で空から地面にダイナミックにカメラが動いたり、大口を開けて笑うおじさんの口元から、歯抜けの人のような看板、射的、とメタファー的な映像が続いたりと、ドイツやロシアの映画の影響かなと思う視覚効果の連続です。たくさん実験してみたかった若いヒッチコック。
ストーリーは、一人のチャーミングな女性を争って、彼女のためにボクサーになる男と、強いボクサーである彼女の夫との対決。夫からは結婚指輪、不倫相手からは腕輪。男どうしはリング上で対決します。
夫が勝つか、愛人が勝つか。というハラハラドキドキ感の演出は、のちのヒッチコックを思わせる大きな煽り方です。でも、勝負に勝って人生に負けることもある…。女性は必死に戦って散る男の弱さに感じ入ることもあります。彼女が、倒れそうになっていた夫のもとへ走ると、彼はとたんに力を取り戻します(なんて単純な!)。そして勝ち誇る夫のかたわらで、愛人からもらった腕輪をそっと外して捨てる女…。
いちいちヒネリを入れずにいられないところが、ヒッチコックらしくて好きです。すごく練られた力作。しかしサイレント映画って、時代が時代ということもあって、登場人物の性格をつかむのに時間がかかってやたらわかりにくいですね。セリフというか、ことばの効用を改めて感じた作品でもありました。