あきらめの中にある母の愛を克明に描けた、たいへんな名作でした。最後の最後まで、まるで印象の薄い地味で従順な母が、というギャップが強烈。
この映画の中で、母が息子を追う最後の10数分間を除いた部分は、私にとっては、言葉は悪いけど「むなくそわるい」です。群れを作ってその外のものたちと殺し合いをするのは、戦闘能力のある動物の多くに共通する行動ではあるけど、それにご立派なお題目を掲げて、イノセントなものたちを力づくで納得させるという行いが、もう生理的に嫌い。そんなことでしか自己確認ができない弱いものたちが、もっともっと上にいる人たちに強制されて戦争に行かされているわけなので、やさしい視点も持てればいいんだけど、ちょっと無理。
でも最後に、押しつけられた「善」に無自覚に追従してきた母の中に、息子が出発したあとの空白の時間に突然、人間らしい感情が湧く。空から降ってきたみたいに。「違う!」と気づく。あの子は取られてしまった。死にに行ってしまった。もうあの子は戻らず、ぬくもりを感じることもないかもしれない。お国のために英雄になりに行ったとか言われてるけど、私のあの子は取られてしまった。
でも、取り戻そうとして取り乱したりまではしない。ただ、あの子は、あの子は、という気持ちで姿を追い求めて、見えたら笑顔になる。また不安になって声をかける。息子が微笑みで答える。喜び、不安、を何度か繰り返して、やがては行進が遠くなる。
監督がシンパシーを感じているのが母だけだったことが、このとき急にわかるわけです。でも表立ってこぶしを振り上げることはかなわない。
私の母方の叔父は3人ともこのくらい若いときに戦争に行って亡くなっています。彼らのことは妹であった母からしか聞いたことがなくて、息子を送り出す母親の気持ちは想像するのが難しいけど、理不尽に対する怒りというか、韓国なら「ハン」と呼びそうな静かな思いは、一生私のなかに残り続けるんだろうな、と思います。