映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ペドロ・アルモドバル監督「ジュリエッタ」2343本目

「ジュリエッタ」は海外向けのタイトルのようで、原題は「Silencio」。「マルホランド・ドライブ」に出てくるナイトクラブの名前と同じなので、沈黙という意味ですね。この監督の映画はドタバタ喜劇も多いけど、この映画はわりと重い。知的で繊細な主人公ジュリエッタと、夫の没後少女がえりしてしまった彼女を守る、娘アンティア。大人になる前にそんな重荷を抱えたアンティアは、ある日家を出て宗教団体のようなところへ入り、完全に連絡を絶ちます。最後には再会と和解がほのめかされていると思うけど、この問題には見覚えがあるので気になる。

知り合いの長女は小さいころはまるで大人みたいにしっかりしていて、母親よりもよっぽど弟たちの面倒をみていたけど、ある日急にぱたっと世話をやめて、やがて家を出たあとはほとんど連絡も取らなくなった。ある日夫となる人を連れて帰って、ごく簡単な手続きで式を挙げてからも、相変わらず連絡はしてこない。

勉強ばかりしてきた子どもが、大人になってからは二度と学ばなくなったりするのと同じように、家のことをやりすぎた子は家から離れたくなるのかな。母と同じように几帳面で繊細なところがあって、赦すことが難しい人なんだろうか。

ジュリエッタの今の恋人であるロレンソが彼女を見染めたのは、病院ですれ違ったとき。すごく美しいのにとても疲れている、みたいなことを確か言ってました。彼の大きな愛をもってしても、愛する人を救うことは難しいのかな。どんな人も、自分自身を苦しめている不寛容の檻を自分から出て、相手の痛みを知ろうとすることでしか、距離を近づけることはできないのかもしれません。

ジュリエッタ(字幕版)

ジュリエッタ(字幕版)

  • 発売日: 2017/06/02
  • メディア: Prime Video