映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督「ファスビンダーのケレル」2348本目

こんな言い方はよくないかもしれないけど、この映画は…ダメだな。この映画はいろんなところがおかしい。なぜかフランス語で、口パクの人が多くて、臨場感が薄い。建物の中はリアルだけど、屋外はぜんぶスタジオに設けたセットで、舞台みたいな閉所っぽい雰囲気。ストーリーが進む場面も含めて、あちこちで流れ続ける讃美歌みたいな合唱も意図がつかめなくて異様な雰囲気。ジャンヌ・モローが歌う「誰もが愛する人を殺す」という軽快なメロディ。監督はこの映画を撮り終えて編集をしながら、この映画は男色が過ぎて上映できないか、趣味に偏りすぎて評価されない、興行的にも成功しない、ということがわかって絶望したんじゃないだろうか。マリア・ブラウンで見られた破滅型の人生への志向が監督自身と重なったら、やけになって麻薬を多量に使ってしまうこともあるんじゃないだろうか…。

ファスビンダー監督が伊丹十三監督に重なって見えてきた。どうしても映画の世界に没入できなくて、コンテクストを深読みしてしまう、悪い癖なんだけど。

冒頭で、ドラマの始まりと同時にどんどんクレジットが出るのは「マリア・ブラウンの結婚」と同じだ。昔の映画なら冒頭にクレジットが出るものもあるけど、最後でなく最初に、本編が始まっているのにずっと名前が流れるってのは、あまり見たことがない。

でも、変な映画って好きなんですよ。人間が作り上げた一つの世界が映画とすると、わかりやすいものより変なもののほうが、人間と同じで興味深いのです。ネットでうつむいた写真しか見つからないファスビンダー監督、どんな人だったんだろうな。

ファスビンダーのケレル

ファスビンダーのケレル

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