映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ペドロ・アルモドバル監督「グロリアの憂鬱」2350本目

アルモドバル監督の作品のなかで、これが一番昔のものです。カルメン・マウラがまだ若くて、憂鬱な妻の役。昨日見直した「ボルベール」では謎の年配女性の役でした。今この映画を作るとしたら、妻の役は誰だろう?

一見普通の家庭だけど、10代の息子は麻薬を売ってるし、夫はあまり稼いでこない、姑はうるさい、隣は売春婦(気のいい人で、仲良くしてるっていう設定がいい)。解説には「日常生活から外れていく」とあるけど、もともと外れていて、なんとなく落ち着いた後も、おそらく外れっぱなし。そもそもアルモドバル監督の世界は、「まとも」が良いという価値観ではないと思う。むしろ、最後の場面のグロリアはもうヒステリーでもなく落ち着いてる。

その世界ではだいたい母が中心にいるんだけど、その母は家族思いで、だいたいヒステリーで偏執狂的だけど一番重要な人物だ。夫たちは皆ろくでなしで、妻から殺されても仕方のない存在として描かれる。

原題は「¿Qué he hecho yo para merecer esto? 」、英語では「What Have I Done to Deserve This?」だけど、本当に落ち込んだりはしないんです、彼の映画のヒロインは。

冷蔵庫の上に吊るしてある生ハムを、ナイフで削って使ってたのが印象的。お金がない!と言ってる家にもぶら下がってるものなんだなぁ、マドリッドでは。

あと、テレビのCMという形ではさまれる、「結婚記念日の翌朝に夫に朝食をぶちまけられて顔にやけどを負った女」とか、ああいう不幸をカラッと笑うテイストが、この監督の持ち味なんだなと思います。

グロリアの憂鬱(字幕版)

グロリアの憂鬱(字幕版)

  • 発売日: 2017/07/07
  • メディア: Prime Video