原作は井上靖。助監督が今村昌平!冒頭、いきなり山村聡社長を訪ねてくるちょっと怪しい三国廉太郎。彼が社長令嬢の月丘夢路と列車の食堂車で出会った経緯も可笑しい。学者ってのは昔も今も同じだな…。
しかしテーマはまるで最近の「トレンディドラマ」(ってもう言わないのかな)のようで、社長令嬢夫妻がうまくいっていない、一方の社長には愛人のようだけど愛人ではない若い女性がいる。そこに現れた真面目一本の魚類学者。愛人風の女性は社長に告白してすげなく振られ、娘夫婦は離婚協議。娘婿は愛人風の女性と出会って新しい恋に落ちたけど、社長とのしがらみで愛に走れない。娘は頼みの綱の学者から振られたけど、あきらめて家にこもるでもなく、自分らしく生きていこうと決める。
娘夫婦が離婚を決意するところや、娘が「ひとりでも生きていくわ」という結末がアナ雪くらい新しい。65年も前の映画なのに。と言っても最後に総括しながら去っていくのは社長つまり前の時代の代表。彼らの時代は離婚なんてもってのほかで、家と家の関係が生きる前提だった。それによってとてつもなく不幸になって人たちもいて、社長は新しい時代が来るのを寂しくも頼もしく感じている。という終わり方。
2000年を過ぎてからは、そういった足かせや枠組みがないことによって、生き方がわからなくなってしまった人たちの問題が語られるようになりました。人間は一人ひとり大きく違う部分があるので、すべての人にぴったりな時代はたぶん、ない。 社長が受け入れようと思った、若者たちがみな自分の幸せをつかみ取れる時代は、結局来なかったというしかないのかな。問題が普遍的な分、安易な答えはなかった…。