映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

エルマンノ・オルミ監督「聖なる酔っぱらいの伝説」2369本目

「~の伝説」ってタイトルには弱いな。寓話めいていて、現実をひょいっと超えてどこか遠くの異次元が現れてきそうで。ましてや「木靴の樹」の監督とあっては。

主演はブレードランナーのルドガー・ハウアーだよ。 あの戦闘型ロボットみたいだったルドガー・ハウアーが、こんなに枯れた、「まんが日本昔ばなし」に出てくるようなおだやかなおじさんになってる。こういうのを見せられると、俳優ってすごいな、監督ってすごいな、と思います。

しかし彼はオランダ人、イタリア語はしゃべれまい?と思ったら、吹き替えですね。つぶやくようでさりげない吹き替えなのでよく見ないとわからなかった。

骨太で大柄で繊細。昔あった「じゃがたら」というバンドの江戸アケミとかThe Smithsのモリッシーとか、なんだか胸が痛むような感じがあってつい見てしまいます。変な話だけど、やせ細った人が病気なのは仕方ないけど、頑強な人が死にかけていると、その人の健康や長寿が侵されているような理不尽な感じがしてしまう。

で内容ですが、タイトルからしてリアリティを追求するものではないし、冒頭のホームレスと老人との出会いも神の啓示か何かのようで、これはファンタジーだということが示唆されます。

老人との出会い以降の「奇跡」の数々は、なんだかもうふわふわとして、重い病気に侵された彼が橋の下でいまわのきわに見た、最後の夢でした!と言われても驚かないくらい。そうでなければ、彼が教会にお金を返せるか、または、今度は彼が老人の側に立って誰かに200フランを与えるという場面が欲しかったな。

落としても盗まれても騙されても、また湧いてくる200フラン。届けようとしても何度も何度も失われる200フラン。

日本文化で生まれ育った私には、起承転結もコンテクストも見いだせなかったけど、やさしおとぎ話でした。

聖なる酔っぱらいの伝説

聖なる酔っぱらいの伝説

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