映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

テンギズ・アブラゼ 監督「懺悔」2394本目

<ネタバレあり>

「ざくろの色」や「不思議惑星キンザザ」を見て以来、グルジア→ジョージアという国が気になって仕方ありません。この映画は予告編が奇天烈すぎて(何回埋めても出てくる遺体)、期待で胸がいっぱいです。

ジョージアの素朴で生活感のある風景。冒頭で”犯人”の女性がケーキの上に優雅に絞り出すピンク色のバタークリーム。「キンザザ」の学生ゲテバンや「チェブラーシカ(キャラクターのね)」に共通する、くりくりの丸いお目目を独裁者ヴァルラムも持っています。「…スタン」諸国の人々にも似た、白い肌とフェルトペンで書いたような濃い髪と眉。全く読み解く手がかりを与えない不思議な文字。そういう文化的、生物学的ディテールだけでも、未知の扉を開いたワクワク感が高まります。

小国の独裁者には、この映画のようなことは実際に起こってるのかもしれません。だいいち、笑い顔の首長なんて新興宗教の宗祖みたいで、どう見ても腹黒い。この市長と、冒頭でケーキのデコレーションをしていた優しげな女性の周囲で過去と現在のストーリーが進んでいきますが、二時間半という長尺を感じさせないテンポの良い展開です。

翻弄される家族、残された小さい娘。長じた彼女が絞るクリームは、冒頭と最後でつながっています。これは彼女が数個のケーキのデコレーションをする間に見た夢だったのか。復讐が何を産むか?市長の最も純真な孫息子にすべての罪科を背負わせて一族を滅ぼしても、自分には何が得られるわけでもないと悟って、ただクリームを絞り続けたという物語だったのかもしれません。

三部作なので前二作も見てみたいけど、ソフト化されてないので不可能に近い…もし見つけたら見てみなければ。