映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

イングマール・ベルイマン監督「叫びとささやき」2410本目

ちょっとホラーでしたね!

「叫び」は死に至る病を得た長女が絞り出すもの、「ささやき」は病人をおもんばかって妹たちと召使いが、声すら出さず息だけで話す音。ベルイマンの映画は最初に「沈黙」を見て、カメラがあまりに女優たちに寄ってるのに度肝を抜かれたのですが、この映画もかなりカメラが近い。(同じスヴェン・ニクヴィスト撮影の映画でも、カメラの近さは一定ではないのですが)耳元というか唇を顔に付けるくらい密着してささやく生々しさが伝わってきて気色わるいくらいです。

次女のイングリッド・チューリンと三女のリヴ・ウルマンって似てますね。目鼻立ちの形は違うけど位置が全部同じ。長女を演じているハリエット・アンデルソンも姉妹といっておかしくないくらい近い容貌。召使いのアンナだけ、ちょっと頑丈そうな雰囲気で彼女たちと違う。他人であるにもかかわらず、大きな愛情を持った女性です。

監督はこの映画で、浅薄さと愛の深さ、虚栄と誠実さといった対照的な心が、実は紙一重だといいたかったのかな。いつも美しく装い、男と見ればすぐにしなだれかかる三女が次女ともっと仲良くなりたい、長女を愛を持って見送りたい、という感情にウソはないと思う。死にゆく姉の狂態をそのまま受け入れるのは難しくても、今までが偽善だったとはいいきれないと私は思うんだけど、監督の意図はもう少し単純で、姉妹たちは去り優しい他人だけが残った、亡き長女はそれでも姉妹たちに感謝して逝った、と言いたかったのかもしれないけど。

それにしてもこの映画は入手困難です。最近、隣接する区の図書館を調べまくっていて、今日は某図書館の館内ブースでVHSでこの映画を見てきました。図書館にはこういう、1980-90年代にソフト化された名作がまだけっこう残ってますよ。