映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

吉村公三郎監督「わが生涯のかがやける日」2411本目

(ネタバレあり)

この作品は1948年制作。李香蘭として中国で活躍したあと、敗戦した日本に戻ってきてからの山口淑子の出演第一作です。

猥雑な戦後すぐの東京が舞台で、アジアのどこかの都会みたいなエネルギーが惹きつけます。森雅之がいい男すぎる…。山口淑子はアイラインが濃すぎてちょっと松島トモ子になっている。宇野重吉がいい人で、殿山泰司がいいかげんな奴で、三井弘次も出てるし…。新藤兼人は監督デビューのときに起用した俳優たちを、こういう映画で見てきたんですね。

再会した宇野重吉が、荒れた生活を送っている森雅之をたしなめる場面のセリフがちょっと硬いなと思ったり。新藤兼人が厳しく鍛えられてた時代なんだろうな…。

山口淑子は二・二六事件がベースと思われる暗殺事件の被害者の娘で、森雅之は誤った義憤にかられて暗殺を行った当事者。で、ヤク中。ヒロポンがあふれてた時代ですからね…。

森雅之が極悪人、滝沢修に対して「警察に行く、縁を切らせてくれ」と真正面から言いに行く場面がある。この頃は、(その後狙われるにしても)話せばわかるという建前が通るくらい、ヤクザの仁義にまだ信頼があったのかな、と不思議に感じます。

「今日こそ、わが生涯の輝ける日だ」と言うのは森雅之。彼を騙して利用し続けた佐川と争って彼を殺害し、山口淑子に過去の自分の罪を告白して受け入れてもらい、二人で最初で最後の一夜を過ごそうというそのときです。

翌朝、佐川の手下にやられることもなく、山口淑子に見守られながら無事、警視庁へ自首する森の姿で映画は終わります。良かった…命もあって罪も償えて。これがマフィア映画だったら報復に次ぐ報復が待っていますが、佐川は単独の鬼元締めだったので、彼なきあとを継ごうという殊勝な悪党はいないのかもしれません。(なんとなく、こういうハッピーエンドが普通だとありえないシチュエーションなので、この映画くらい幸せになってほしい気持ち)

当時はおそらく、李香蘭の凱旋第一作として派手に宣伝されたんじゃないかと思うけど、誠実な脚本、ほかの俳優たちの名演技、ドラマチックな画面構成など、見どころが多いです。Wikipediaによると、これでもGHQの検閲でだいぶ削られたんだとか。

素敵な映画なので、機会があればぜひ見てみてほしいです。