映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ブルース・ベレスフォード監督「テンダー・マーシー」 2412本目

えっロバート・デュバル?こんな普通の人だったっけ?私の中の彼はなんとなく“獰猛な人”(※「地獄の黙示録」の見すぎ)なので、穏やかすぎて誰だかわかりませんでした。獰猛というより、優しくてダメな男です。無銭宿泊~泊った分働いていきます~雇ってください~結婚してください、という彼に「いいわよ」「いいわよ」と応じる人の好さそうな未亡人。

しかも彼はこの映画でアカデミー主演男優賞を取ってるんですね。元歌手の役で、ギターを鳴らしながら歌いだしたのはカントリー!ヨーデルのようないい人っぽいビブラートまで聞かせています。そんなバカな!キルゴア中佐!(もう忘れてやれ、私)いやでも、狂った軍人にも国に帰れば鶏が走り回っている家があったりするんだろうな、という想像を掻き立てるという意味でもこの役柄は新鮮です。(51歳ですでにつるっとした頭を見せているのも清々しい)

カントリー音楽ってほんと、常にダサくてのったりしてて、聞いてるのも人のいい酔っぱらいばっかりで、アメリカが好きになってしまいそうになります。

義理の息子と一緒に、しれっと洗礼を受けるデュバル。じゃなくてマック・スレッジが可愛い。やばい、惚れてしまいそうだ。

「テンダー・マーシー」は宿を経営してる未亡人→妻の言葉のなかで、「神の恩恵」と訳されてますね。あなたと息子との今の生活に感謝している、と。昔売れてたカントリー歌手って、日本でいえばフォークみたいな、比較的情緒的な歌を自作して歌うアーティストのイメージなんだろうな。

この映画って…今なら「世界でひとつのプレイブック」になるんだろうけど、未亡人~妻のローザ・リーが「善」なのが自然すぎて、彼女のおかげでマックが生まれ変われたということがほとんど語られないのが面白い。元妻はいつも元夫のマックに恨み言を言ったり、いちいち悪く取ったりしてるのに、彼女は彼の娘がやってきても有り金全部渡して何も言わない。これってもしかしてキリスト教伝道映画?だとしてもよく出来てる。

好奇心でホラーやきっついサスペンス映画、戦争映画とかを見たあとには、こういう映画も見たいよね。いい映画でした。