映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アレハンドロ・アメナーバル 監督「海を飛ぶ夢」2415本目

スペインの映画って面白いのが多いな、この監督は初めてだけど、やっぱりいい。題材が、というかこの実在したラモン・サンペドロという人の諦観と知性が素晴らしいです。

どこの国にも、アクティブだったけれど仕事やスポーツ、あるいは不慮の事故で付随な身体を持つに至った人がいます。最近は、NHKの「バリバラ」みたいに、現状を受け入れて、笑って、今できることを楽しもうという流れが目立っているけど、優しい人であれば優しい家族に迷惑をかけたくないと思うのも自然です。こんな重荷を背負った彼に私たちが言えることなんてあるんだろうか?スペインはカトリックの国だから、自殺は神に反する行為として認められないんだと思います。同じ境遇にある別の人(しかも牧師)と違う考えを持つことがあっても当然です。

ハビエル・バルデムはいつもながら素晴らしい。長い年月を経た初老の男としか見えません。絶望をユーモアで覆って微笑みを絶やさない、そういう深さを見せてくれます。晩年のピーター・セラーズみたいじゃない?

ロラ・ドゥエニャスも好きなんですよね。彼女はいつも「普通」なんだ。立派すぎず、悪すぎず。

不治の病にかかった弁護士は実際にはいなかったみたいですね。この映画の中でも、彼女の設定はちょっとロマンチックすぎるかな、という気がするけど、彼女の静かな存在感がこの映画には必要だったんでしょうね。ベレン・ルエダはTVプレゼンターをやっていて、この映画が40歳にして初の映画だったとのこと。すごく自然でいい存在感ですね。

10代のサッカーの事故で彼のような状態にある人がいます。私は何度か遊びに行ったことがあるだけで、いつも明るい彼の本当の気持ちなんて何もわかりません。彼はこの映画のことを知ってるんだろうか。知っていたらどう思っただろうか。ラモンの26年と彼の26年。その重さ。

青酸カリを飲むと体が熱くなるのか。こういうことを詳細に映像化するのが、感情を味わい尽くさないと先に進めないラテン気質のような気がします。