映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アリーチェ・ロルヴァケル 監督「夏をゆく人々」2416本目

イタリアの、ネオ・リアリズモっていうんですかね、海外のドキュメンタリーみたいな演出のなさそうな映像のなかで、しかめ面のお父さん、優しいお母さん、野性的な女の子たちが素朴に暮らしている…その中に唐突に入り込んでくるテレビの撮影隊。水の精みたいな扮装をした、その場に似つかわしくない、モニカ・ベルッチ似の女優…まさかと思ったらモニカ・ベルッチだった。まさか彼女が出ていなさそうな映画に突然彼女を発見する率の高さ。そしてどこに現れても、そこにいるだけでモニカ・ベルッチだとわかるモニカ・ベルッチ度。何にでも出てるのは彼女の強烈な語学能力もあるけど、違和感をもたらしつつ映画をピリッと華やかにする大きな存在感が映画人たちに愛されてるということもあるんでしょうね。彼女が出てる映画はだいたい面白い。ていうかほんとに面白い女優さんだなぁ。ぜひ日本の監督も、邦画にしれっと「モニカ・ベルッチとばったり会ったら夢をみたんだ」みたいな場面を作って登場させてあげてください。(cf. ツイン・ピークス The Return第14話)

リアリズモの養蜂家のところに唐突にモニカ・ベルッチがやってきて、伝統的な父が古代ふうの扮装をさせられてテレビに出演させられるというギャグ!(いや真剣です) 

結局、一家は若干テレビに振り回されたり盛り上がったりしたけど、元のさやにおさまります。臨時で預かっていた非行少年も見つかって、明日からはまた家族ではちみつを採って暮らそう…。

映画賞の外国語映画賞って、なんだかんだ言って映画の作りの良さより、「取り上げている題材の珍しさ」「技巧のなさ」が評価されることが多いように思います。この映画は、(審査員がおそらく)誰も行ったことのないイタリアの田舎の、食べたことのないくらい美味しい自然なはちみつの魅力が、手付かずのまま映画になったことの評価だろうな。モニカ・ベルッチがかき回しても手あかが付くことのない、リアリズモのはちみつなのでした。