映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督「ベロニカ・フォスのあこがれ」2417本目

今なかなか見られないレアものです。某図書館で借りました。

「マリア・ブラウンの結婚」も面白かったけど、こっちは最初からなんだか異形な映画です。全盛期を過ぎた女優が中心ということで、当然思い出すのが「サンセット大通り」ですが、あちらはきちんと筋を追う形なのに対してこちらは薬物中毒者の妄想のような画面が続きます。時系列がよくわからないし、ヴェロニカ・フォスはいつもハイパーで偏執狂的だし、怪しい老人たちが登場するし。言ってることはまともなんだけど、絵づらを怪しく作ってある。病院の中はコントラストが強すぎて白が飛んでる。あえて。

ツインピークスの異次元の場面みたいな白黒。画面の中に異形の赤色や巨人や小人が見つからないことが、むしろ不安をあおります。

ヴェロニカ・フォスのモデルとなったシベル・シュミットという女優に、親密だった女性医師に実質的に殺されたという噂があったそうで、この映画でも間接的に彼女が死をもたらしたことが示唆されます。

ヴェロニカが自分の夢の中の「お別れパーティ」でピアノに合わせて、地獄から響くみたいな低音で歌う”思い出はそうやって作られる”って歌も、アップテンポで明るいのに歌詞がうす暗くてちょっとゾッとする。「ケレル」でジャンヌ・モローが歌う”誰もが愛する人を殺す”って歌もこんなふうに明るかった。。。

ヴェロニカ・フォスは結局、何に「あこがれ」てたの?過去の栄光?

この映画の怖さは、見た人が怖くなるように作られてるからじゃなくて、作ってる人があかるく、まったく意識せずに、棺桶に片脚を突っ込みかけてれるところだな。すごいもの見せてもらいました。