映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

グザヴィエ・ドラン監督「ジョン・F・ドノヴァンの死と生」2440本目 

ふつうLife and deathでしょう。最初からDeathとくるところが不穏です。

そもそもドラン監督の作品は、生霊みたいに死にとりつかれていると感じることがよくあります。死の中でも、老母が老衰で死ぬとかじゃなくてpremature death。若くて美しい人がむざむざ命を落とすやつです。

<以下ネタバレ?>

ただし、この映画はタイトルで既に約束された主役の死に引きずられることなく、同じくらい重い苦痛を背負いつつ成長して俳優になったルパート君の明るさで、最後に光のある作品となっています。

ジョン・F・ドノヴァンを演じるキット・ハリントンは、逞しい若者だけど繊細さが見え隠れする魅力があります。演じるジョン・Fは、肝心なところで迷って人を傷つけたり、自分を窮地に落とし込んでしまう運の悪さがあります。そしてドラン監督なので、腹の底を叫び出してぶつかりあう親子の葛藤の場面。これがジョンF vs 母スーザン・サランドン、ルパート少年 vs その母ナタリー・ポートマン、両方の親子の間で爆発します。

インタビュアーのオードリー・ニューハウスを演じるタンディ?サンディ?ニュートンは、真正面から見た記憶があると思ったら「クラッシュ!」で救い出される妻でした。かなり気性の強い女性を演じるとキツくてぴったり。

しかしキャシー・ベイツもスーザン・サランドンもマイケル・ガンボンも、良いに決まってるじゃないですか。ナタリー・ポートマンも神経質そうな雰囲気が良いです。

初期の作品みたいな派手な色彩はないけど、印象的な音楽の使い方で、映像の美しさが際立っていました。ドラン監督の作品はいつもそうだけど、よかった・悪かったとかじゃなくて、心がざわざわっとするんですよね。

ジョン・Fのそのときの本当の気持ち。ルパート君のそのときの気持ち。その後の人生。そういう、ある意味肝心なことは一切語られません。誰かが一人でいるときの映像が少ない映画です。最後の手紙(母ナタリーが読むことで観客に伝えられる)以外のやりとりは一切不明。普通、映画なら観客を引き込むために観客だけに開示しそうな秘密が、秘密のままにされる。ドラン監督の映画はいつもそうだけど…。安心感や納得感を一切与えてくれないから、ざわざわが残るのかな。

この気持ちをどうすればいいんでしょうか、ドラン監督……。