映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

真利子哲也 監督「宮本から君へ」2445本目

俳優がみなすごく役に入り込んでいて、深い演技で見ごたえがありました。好き嫌いはあるだろうけど、力の入ったいい映画だと思います。これはやっぱり監督の力なんだろうな。

真利子哲也 監督って「デストラクションベイビーズ」だし、バイオレントなイメージがあります。原作もテレビ版も知らないけど、池松壮亮と蒼井優と井浦新なんて、すごく映画的なキャストですよね。

バイオレントな井浦新は久しぶりで、やっぱりいい。「日曜美術館」の静かな彼も良かったけど、ブチ切れた井浦新は何者にも替えがたい。(「蛇にピアス」とか)

 「俺、靖子と子どもを愛してますから」と言ったときの池松壮亮の眼の中の星が、大竹しのぶみたいだった。似てきた?

街の乱暴者を演じた一ノ瀬ワタルのワルっぷり、大熱演でしたね。心底憎い乱暴者が最後にやられる場面をリアルにやりきった感じ。

この映画では性暴力の場面は、淡々とドキュメンタリーのように描かれるけど、やられた女とその男の慟哭はすさまじい。男が簡単に強姦する動物なら、自分の女がやられたらこれほど慟哭するのか。それより、間髪入れずに警察と医者に行くという啓蒙活動がまだ足りてないと思ったりもする。最大の報復は、証拠を突き付けることだから…。(原作は1990年頃だから難しいのかな)

 主人公の「宮本浩」のモデルがエレファントカシマシの「宮本浩次」であることは明らかなんだけど、1990年当時の「ファイティングマン」とか「奴隷天国」で熱いイメージの彼だったのかもしれない。私がエレカシを聞くようになった2000年以降は文学的で繊細なイメージもあったので、このキャラクターが宮本浩だというのはちょっと違和感あるな。逆に、この役を宮本浩次が演じたら…(無理か)

この映画のピエール瀧をそのまま公開するかどうか、ずいぶんもめたんですよね。彼の役どころがもっと極悪なら、麻薬=悪の反面教師になるということで問題なく公開されたんだろうか。公開をやめたり、差し替えたりすることの意味が私にはいまもよくわからない。

 この映画は作者が、卑劣な犯罪を身近に見聞きしておぼえた怒りをぶつけたものなのかな。今の時代の閉そく感を写しているように感じられるけど、実はバブルの頃の漫画だ。日本は昔からほんとうは病んでるのかな。

その中で真っ正直で大バカな宮本浩。私も大バカ者になりたいな。この映画がキネ旬主演男優賞、平均評点(2020/3/17現在)82.4点っていう日本は、まだ諦めるのは早いかも、って思いました。