映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

諏訪敦彦監督「風の電話」 2448本目

これもまた「別府ブルーバード劇場」にて。観客はきわめてまばらだけど、今日は館主の方もいらして、湯の街で映画文化を長年守り続けてきた方の笑顔がとてもまぶしかったです。

この映画は、感想を書くのが難しいですね。作り手と現実の被害者やその家族の方々の意識や思いは一致するわけではなく、もしかしたらすれ違うだけなのかもしれない。でも作らずにいられなかった気持ちが、ハルを何かと気に掛ける通りすがりの人たちの気持ちとなって、映画のなかに現れているのです。

ハルの言葉は、9歳で家族を見失った人たちの言葉に聞こえないかもしれない。本物の彼女には、通りすがりの人たちの言葉やサポートが、空虚にしか感じられないかもしれない。でもそれがみんな熱い思いなんだということが、いつか、彼女の人生のずっと後のほうでも、伝わればいいな、と思います。

主演を務めたモトーラ世理奈の、特徴のある透明ですこし暗いビジュアルや至極素直な演技が、とても良かったですね。少女特有の危なっかしさ、悪いもの・黒いものに取り込まれてしまいそうな弱さを持っているけど、本人は至って健康な若さも持っているから、見ていて不安になるほどのヤバさがない。つまり安心して見ていられる暗い少女なんですよ。この映画のなかではまだ希望といえるほどのものが見えなかったけど、それでも生き延びて成長して、きっと笑ってくれる、と思える。

最後に出てきた男の子は最後には姿を消していました。あれは彼女を風の電話へと導く天使みたいなものだったのかな…という余韻を残してくれましたね。