映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アルフレッド・ヒッチコック監督「マンクスマン」2475本目

1929年の作品。同年の「恐喝」が(イギリス発といわれている)トーキーで、これはサイレント最後の作品。ヒロインは2本とも、可憐なアニー・オンドラ。「恐喝」のほうは後ろ暗いところのある女性の役で、こちらも二人の幼馴染の男性のあいだで心が揺れる女性の役。彼女の揺れる心、裏切ったほうの男の帰還におびえる心情、友情を優先しようというもう一人の男の決意なども描かれていて、ミステリーじゃないのにヒッチコック的です。マン島の奇怪な海岸の風景の中で、新しい男と二人で裏切った男を待つ描写とかも面白い。

殺人はないけど、隠し事はある。愛を通すと友情が壊れる…。我慢しきれず、女性はとうとう…。迫真の演技と監督の巧みな構成でドキドキハラハラ。人間の心の中の純粋さとずるさ。大変力の入ったサスペンス映画となっています。セリフがなくても演技で十分に伝わってくる。サイレント映画と思えないくらい見る人を釘付けにする、ヒッチコック初期の名作です。 

マンクスマン [DVD]

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  • 発売日: 2005/07/27
  • メディア: DVD