映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイス・オルテガ 監督「永遠の僕のもの」2489本目

なんとなく、タイトルとDVDビジュアルからフランス語の映画かなという印象を持っていたので、いきなりスペイン語でちょっと面食らった。でも製作ペドロ・アルモドバルだしセシリア・ロスが出てるし、原題は「The Angel」というのを見てなんとなく納得しました。ただしスペインではなくアルゼンチンの監督、冒頭の、広すぎて全体的に赤いこの少年の家の室内がすごく印象的です。ものすごく乱暴にいうと、ペドロ・アルモドバル作品とグザヴィエ・ドラン作品の間のどこかに位置する作品。

天使の顔をした殺人者。頭脳とカンと反射神経にすぐれた、トップアイドルにもCEOにもなれた少年。簡単な言葉で表すと、共感力を欠いたサイコパスってことになるんだろうな。好きな人にどう思われるか悩んで眠れなくなるような小心者は、彼の傷つかない心がうらやましいんだ。

作品の特徴は、耽美的、という感じかなぁ。南米のカフェとフィンランドのカフェの雰囲気が不思議と似てる感じがする。だだっ広くてわりと何もないところとか。犯罪は日常の延長、ちょっとめんどくさいお手伝い、くらいの重さで描かれます。だから見てる方も、スリルがない。何も楽しいことがないカルリートスと同じように醒めた頭で映画を見ています。盛り上げないことが監督の意図だったのか?結局彼は「なぜ殺すのか」。欲しいものは今欲しい、生きている人は要らないものでしかない、という感じなんだろうか?いくら想像しても近づける気はしないけど…。

モデルとなったカルロス・プッチ少年は今も獄中で存命ですが、この映画化には大反対で、自分の名前を使うことを厳しく禁じたそうです。それはそうだろう、映画監督や俳優たちの自由は彼にはもう死ぬまで与えられない。無鉄砲に悪いことを繰り返していたら、いつか自分に返ってくるということもわからない、考えられない幼い悪のまま彼は閉じ込められてしまったから。好きなことしかしない彼にとって、終身刑はこの世で考えうる、死よりも最も残酷な刑罰だ。

…ググるとけっこう今の彼の写真が見つかりますが、逮捕当時の美少年のおもかげはなく、海坊主みたいなおっさんでした。見なきゃよかったか…いや見てよかった。悪と美とは関係なくて、美は若さとひもづくものでしかないことが、よくわかった。美しさに強く惹かれる人もいるけど、その中には別に何も入ってないのだ。

邦題の「永遠に僕のもの」は、衝動的に攻撃的になにかを手に入れようとするけれど、何にも執着しない彼には、似つかわしくないタイトルでした。

永遠に僕のもの(字幕版)

永遠に僕のもの(字幕版)

  • 発売日: 2020/02/04
  • メディア: Prime Video