映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マリア・ペーテレス 監督「レディ・マエストロ」2496本目

どれくらい事実なんだろう。生い立ちや、コンサートホールの仕事を首になったこと、ピアノ教師についたこと、音楽学校に入ったこと、指揮者に師事したこととかは事実だろうけど、御曹司フランクの存在がどうもフィクションっぽい感じがする。ロビンって存在も温かくてすごく良いけど、多分実在はしないだろうな。地下のショーパブ自体はあったんだろうか。戦前のベルリンは百花繚乱だから実在はしたんだろうな。

それにしても強い人だ。自分を曲げることのできない、恵まれた、かつ、呪われた強さを持って生まれてしまった。彼女は自分に才能があることを誰より早く知ってしまった。強いってのは鈍感ってことじゃなくてとても繊細なんだけど、自分が守るべきもの、世界に貢献できるものは音楽の才能だと知ってたから、そこから逃げることができなかった。

本物のアントニオ・ブリコの写真を見たら、写真映りのせいかもしれないけど、ちょっと怖かった。晩年のブリコは魔法使いのおばあさんみたいな感じ。動画もあったけど、ものすごく力強い指揮で、軍隊の総司令官みたいだ。そのくらいのパワーが必要な職業なんだな。

この映画って、映画としてとてもよく作られてるんだけど、かなり史実とは遠いんだろうな。アントニオ・ブリコって、伝記映画が作られて一瞬ブームになったらしいけど、その後また語られなくなったそうです。誰かが、実在したアントニオ・ブリコのことを語り続けなければ忘れられてしまう。この映画は面白く、誰にもわかりやすく受け入れやすく作って、たくさんの人に見てもらう必要が、まず最初にあったんだと思います。

レディ・マエストロ ~アントニア・ブリコ~(字幕版)