映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ビル・ポーラッド監督「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」2524本目

「終わらないメロディー」ってサブタイトルがちょっとイケてないけど、まいっか。

ビーチ・ボーイズの曲はずっと好きで、「ああいう良質なポップスこそ高度なんだ」「ジャズの理論を勉強してるからね」「生みの苦しみでブライアン・ウィルソンはおかしくなった」といった都市伝説みたいな話を聞いては、なんだかすごい人たちだと認識してました。ベスト盤やペット・サウンズ、その後ブライアンとヴァン・ダイク・パークスが共作した「オレンジ・クレイト・アート」も愛聴したし、彼の映画は絶対見なきゃと思ってたのにこんなに時間がたってしまった。DVDの発売情報ってほんと入ってこないな。

ジョン・キューザックとポール・ダノは全然似てないけど、どちらも妙なクセがあってちょっと神経症的に見えなくもないところが役者としてすごく魅力的なので、私としては割と嬉しいキャスティングです。

ポール・マッカートニーもブライアン・ウィルソンもヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトもヨハン・セバスティアン・バッハも、きっと似てる。ブライアンがヴァン・ダイク・パークスと「Smile!」を完成させたと聞いたときは狂喜して買ったけど、私には尖りすぎてて、ついていけずに売ってしまった。ファスビンダーの映画とかシュヴァルの宮殿みたいな、ちょっとヤバいアートの魅力に近づいていく、ちょっと落ち着かなくてモゾモゾしてくる感じ。

ビーチ・ボーイズの楽曲って、サーフィンものでもそれ以外でも、メロディや録音が高度な割に歌詞が幼い。そこが、IQ200の子どもみたいで痛々しいんだよね。

「Good vibrations」は一番好きな曲かも。サビが今までの音階より低いところから始まって、楽器もコーラスもだんだん高い音が積み重なってくる感じがゾクゾクするくらい、何百回聴いても新鮮で。この曲がスタジオで出来上がっていく様子を再現してる場面だけでも、この映画を見る意味があります。出演者の生歌も素晴らしいです。

楽曲のオーケストラアレンジをやってる人の話を聞いたことがあって、彼女が言うには頭の中で小人たちが大勢、バラバラに楽器を奏でているのを譜面に落としていくんだそうです。音に敏感すぎて、たまに人里離れた高原に行かないと神経が持たないって。少年の心のまま大人になったブライアンが、大人の社交のディナーの席のナイフとフォークのカチャカチャでピキー!っとなるのは、それに似たことなのかなと思う。

ブライアン・ウィルソンっていう大きな天才少年のことを少し知ることができてよかったけど、私にわかったことなんて彼のごくわずかな部分だけなんだろうな。

持ってるCD全部、ゆっくり聴きなおそう。

ラブ&マーシー 終わらないメロディー(字幕版)

ラブ&マーシー 終わらないメロディー(字幕版)

  • 発売日: 2016/01/29
  • メディア: Prime Video