映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アルフレッド・ヒッチコック監督「農夫の妻」2538本目

「農夫の妻」ってタイトルから、いつもボヤいてるおっちゃんの方が主役かと思った。農夫って普通は使用人のほうを指す言葉だけど、Farmerの正しい日本語訳は「農場主」、経営者のほうなのだ。

この映画が公開された1928年を調べてみると、ちょうど英国で21歳以上の男女が平等に参政権を持つようになった年だそうです。それまでは「戸主または戸主の妻である30歳以上」の女性だけ。この映画を監督したヒッチコックが男尊女卑だと書いている人がいるけど(※言っとくけどチャップリンの映画なんて「醜女の深情(1914年)」ですから)、当時はみんなそうだったってこと。逆に、召使いと再婚するなんて、むしろ大胆で先進的な気もします。「テス」なんて、きれいな子そそのかして女中にして手をつけて捨てる話だよ?インドなんて2018年作品でも、相思相愛でも召使がご主人に「あなたの名前を呼べたなら」って言ってるくらい、平等などはるか彼方です。

ちなみに、召使いのミンタさんはいつもご主人にまっすぐ向いて、腰に両手を当ててご主人を見上げるんだけど、同じこと部下がやっただけで激怒する日本の管理職って(※男女問わず)100万人はいるんじゃないか…令和2年だけど…むしろ、農場主を振る女性たちの言い分が、ののしられても「私は自立してますから」などと気持ちいい。

映画ほど、その時代の世相やコモンセンスを明瞭に映す芸術作品はありません。映像と言葉と音楽と、いろんなものが組み合わされた総合芸術だから、隠そうとしてもどこかの隙間から本音がもれる。

召使いのミンタは、本音をズバズバ言う女性たちを「私たちにも非があります」と控えめ。彼女は口答えできる立場ではない上、ご主人に惚れています。このご主人にはこの女性。結婚後、上流階級の女性たちに意地悪されるかも、なんてことは今は考えないようにしましょう。

ミスター・スイートランド、ミンタはあんたには勿体ない子だよ。 

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  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: DVD