映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

パブロ・トラペロ監督「エル・クラン」2587本目

監督は知らないけど製作にペドロ・アルモドバルが入っています。でもいつもの作品と違ってユーモアなし。

誘拐家族のお父さん怖いです。悪気のかけらも見せないいつもの落ち着いた表情。これは「家業」なのか。家族を巻き込むところがズルい気がするけど、子どもたちに隠そうともせず、手伝わせるってことはやっぱい「家業」という認識なのか。

長男はずっと前に「亡命」。三男も遠征試合をきっかけにもう帰らないことを決める。友人が誘拐される手引きをさせられ、その友人を失ってしまった次男。一人残された息子である彼の気持ちは揺れます。

パパは足を洗う気配なし。一人逮捕され、残った彼らも状況がまずくなると殺す、ということを繰り返し、だんだん追い込まれていきます。なぜか逃亡していた息子が一人帰ってくる。一方で、家のどこからか響きつづける「助けて」という叫び声。家にかかってくる無言電話。(これは「これからガサ入れまたは殺しに行くぞというフラグだな)なのにスルーして続けるから…。父が何かを受け渡そうとしたガソリンスタンドにも、自宅にも詰めかける警官たち、自宅を早くも取り囲むマスコミ。父が家族に言う「安心しろ」が、警察の高官にたっぷり賄賂を積んだということなら、そんなものは立場が変われば消えてなくなる。

南米の遠さ、知らないっていうことの怖さで、私はこの映画を見たことでアルゼンチンが少し怖くなってる。自分の中に一つまた新しい先入観が刷り込まれた瞬間。これはこの先、現地を旅行するときに用心となって私を守ってくれるかもしれない。でも「これだから南米は」っていう画一的な思考停止にならないように、理性もしっかり持ち続けたいものだと思います。 

エル・クラン(字幕版)

エル・クラン(字幕版)

  • 発売日: 2017/05/18
  • メディア: Prime Video