映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ケン・ローチ監督「家族を想うとき」2610本目

救いがないけどオチもない、現実と同じような終わり方だった。

完全引退していたローチ監督が拳を握って復活した「わたしは、ダニエルブレイク」では確か、私は映画を見ながら泣いていたんだけど、この映画には”悲惨さ”はあまり感じない。それは徹頭徹尾、(キレることがあっても)母が愛に満ちていて常に愛で判断が下せる立派な女性だからだと思う。娘ライザも、やはり思いつめてやらかしてしまうけど賢くて家族思いだ。息子は反抗期でイキがってるけどやっぱり優しい。父はもちろん懸命に家族のためにがんばってる。彼らはすごく困ってるし家族だけで問題は解決しようがないんだけど、孤独じゃなくて素晴らしい家族がいるから、”悲惨”という言葉が浮かんでこなかった。(エンディングの後に起こることによっては”悲惨”と言わざるを得ないことになった可能性は高いけど)

父は保険には加入してないんだろうか、など勝手に心配してしまったけど、自営業の事業主だから労災保険に加入する立場じゃないのか(たとえ日本と同じだったとしても)。うまくいけば大もうけ、トラブルがあると大赤字。建設業のほうがまだリスクは少なかったんだろうな。昔から日本にも「赤帽」という小規模運送業者がたくさんあって、姉の進学のときはまだ「宅配便」じゃなくて赤帽を呼んでたんだけど、それをすべて一人一台でやらせてる感じか。UberとかAmazonパートナーも同じだけど、この映画で扱ってるのは運送専業の大企業のようです。Uber、Amazonパートナーと違うのは、専用車を買うかレンタカーする前提ってところか。いきなり素人がフランチャイズっていうのは無理がある気がする規模感。個人主義、自己責任の国のビジネスともいえるけど、明らかに資本家だけが儲けるビジネスなわけで、そういう仕組みを考え出して新法で禁止されるまで続ける頭のいい奴がいる国だなと思う。だから英国には労働党が必要なんだ。

「ダメ、ゼッタイ(フランチャイズの運送業なんかに手を出しちゃ)」という教訓がみょうにくっきり頭に残る映画でした。この映画で問題なのはその1点に絞れるからな。(ダニエルブレイクにはもっといろんな要因が重層的にかさなってたけど)

家族を想うとき (字幕版)

家族を想うとき (字幕版)

  • 発売日: 2020/06/17
  • メディア: Prime Video