映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クリント・イーストウッド監督「リチャード・ジュエル」2612本目

いい映画だったなぁ。イーストウッド監督、この安定性。

<ネタバレとかいろいろあります>

リチャード・ジュエルの朴訥すぎる、真っ正直で正義感の強い性格。確実にいじめられそうな、友達少なそうな。いい奴なのに。…という彼を、持ち上げることもなくありのままのちょっと変なやつとして描いたところがいいです。多くの人は、変な奴は悪い奴ではない(とは限らないというべきか)ってわかってないよなぁ。

映画を見ていただけでも、ビール瓶を投げてた若者たちが見つけたバックパックを彼が届けようとしたことや、その後の避難をリードしていたことはわかるんだけど、その場にいた人たちに事情を聴いたのか、みんな何て言ってたのか、とかまったく語られていなくて、すごく事実を単純化してる感じはありますね。警察やマスコミの中にも、彼の有罪を疑った人もいただろうし。そういう意味で、テーマが重い割に映画自体は重くなかったです。

ジュエルを演じたポール・ウォルター・ハウザーもいいけど、何よりサム・ロックウェルが良すぎる。悪を演じた役を見ることが今まで多かったけど、正義の人をやっても良かった。ゲイリー・オールドマン化が進みつつある、みたいな感じ(どちらもかなり好き)。

キャシー・ベイツも良かったですね。母の愛があるから息子もがんばれる。

公園管理者や新聞記者キャシー(オリビア・ワイルド)といったハリウッド的美男美女が、なんだかとても薄っぺらく見えてきます。ジュエルの無実を信じるようになった後のキャシーの活躍?がまったく描かれてなかったのはちょっと残念、というか、片手落ちな気もします。

ジュエルが取調室で「警察のマークに憧れてたけどがっかりだ、人を助けたのに僕のどこに問題があるというのか、何の証拠があるのか、こんなことをしたら警備員は今後爆弾を見つけても黙って逃げるようになるし、真犯人はまたどこかに爆弾を仕掛けている」と胸の内を爆発させる(※あくまでも口調はおだやか)場面、良かったですね!彼は嘘のない本物の彼だから、こういうときに言葉に力があります。

私この話は、多分どこかで聞いて知ってて、ジュエル氏は無実が判明してすぐに病気で亡くなったのかと思っていたので、その後好きな仕事を誇らしくやっていたと知って嬉しい気持ちになりました。

結局本は書いたのかな。ググってもひっかからないので書かなかったのかもしれない。でもWikipediaからすごい記事に飛べました。松本サリン事件でジュエルと同様の”報道被害”を受けた河野義行さんが、アトランタに行って彼と対談をしてNEWS23で筑紫哲也が報道してたっていう記事。そこで日本の私たちは現実に引き戻されますね、これは遠い国の事件ではないって。

今はこの頃より報道規制が厳しくなってるけど、その分もっと悪質な、憶測や中傷の領域のネットのデマが無実の人たちを苦しめてる。

ジュエルが無実だったからマスコミが悪い、というと「有罪の人になら何をやってもいいのか」ということになるし、警察と報道だけじゃなくてネットも、と範囲は広がるしマナーは移り変わっていきます。みんなもっと人間的な部分を大事にしよう、愛を忘れないで、としか言いようがないな…。

リチャード・ジュエル(字幕版)

リチャード・ジュエル(字幕版)

  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: Prime Video