トリコロール三部作を見終わって、はかなげで優しい女神的なイレーネ・ジャコブをもっと見てみます。「赤の愛」とも違う不思議な女性(たち)です。
ストーリーを追うのは難しいわかりにくい映画なんだけど、こういう作品は心の目で見よう。原題は「ふたりのベロニカ」じゃなくて「The Double Life of Veronique」つまり「ベロニカの二重の人生」。直訳されていたら難解に感じる日本人はだいぶ少なかったんじゃないだろうか。つまり(比ゆ的には)ベロニカは二人じゃなくて一人なんだ。ドッペルゲンガーというより一つの魂が双子みたいに分かれてヨーロッパのあの辺とこの辺で生活している。
何かこの映画には哀しみがある。ポーランドの中でもクラクフは「シンドラーのリスト」のシンドラーの工場があった、有名なホロコーストの町だ。クラクフのベロニカは天才ソプラノだけど、彼女の人生ははかない。最後のほうに人形遣いが言う「オーブンに手をかざして火傷してしまった方の女の子」だ。「手を伸ばさないほうがいいという霊感のおかげで、すんでのところで火傷せずに済んだ女の子」であるフランスのベロニカは、楽天的で活動的だ。彼女はクラクフのベロニカのところまで出かけて行って写真も撮っている。先に見つけたのはクラクフのベロニカのほうだけど、はかなく息絶えてしまう。ずっと胸の痛みを感じつつ、生き延びているほうのパリのベロニカは、だいぶ時間が経過した後に彼女の写真を見つける。クラクフのベロニカの存在に気づいたとき、同時に彼女がもういないことを察知して泣き崩れる。
これがもし1941年のことだったとしたら?クラクフのベロニカはゲットーの中で息絶えて、「もし自分がクラクフでなくパリで生まれてたら」と自分の別の人生を夢見たかもしれない。…これが大前提にあったんじゃないかなぁと私は何となく感じてるのです。
それにしても女神だった、イレーネ・ジャコブ。