映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アンドレア・パラオロ 監督「ともしび」2662本目

2001年の「スパイ・ゲーム」ではセクシーな中年女性を演じたシャーロット・ランプリングの2017年の作品。作品の趣旨として彼女は老女を演じています。この年齢の女性の16年間は長い。(まもなく我が身だ)

いつも通っているスポーツクラブで水泳後にシャワーを浴びる場面で、彼女はためらいもなくヌードを披露しています。彼女のヌードは「愛の嵐」に始まり、2003年の「スイミング・プール」でもちゃんと男性を誘惑することに成功していた。彼女の大部分は映画の中に記録されてる。

どんなときも凛としているのが彼女の役どころだと思ってたけど、この映画で初めて不安や不安定を演じて見せる。不安定なのは、ずっと一緒だった夫がいないから。英語が母語の彼女が暮らしているのはフランス語圏のベルギーだから。

ストーリーは、他の人の感想をたくさん読んでやっとわかってきて、2回目に見てやっと監督の趣旨が少し見えてきた。ある日警察に老夫婦が呼び出されて、夫はそのまま収監される。帰る妻は一人。妻は淡々と同じ日常を過ごそうとするけど、”被害にあった少年の母”が家に押しかけてくる。孫に何かしでかした過去があるのか、息子からは「もう他人だ」と拒絶される。天井の雨漏りを直そうとして箪笥を動かしたら、裏から”写真の入った封筒”が出てくる。スポーツクラブの会員証は期限切れ。奇矯な声を出させる演技教室?では、セリフを語ったり本を音読したりするんだけど、それがどれも彼女の深層の気持ちを表したような言葉になってる。逆にいうと彼女自身のことは、そういう言葉でしか語られない。

愛犬を人に譲り、演技教室を途中で退室して、駅に向かう。(カメラはその間彼女を後ろからリアルタイムで追い続ける)プラットフォームで電車を待つ彼女の体が少し震えていて、電車に飛び込むんじゃないかという緊迫感がある。でもいつものように電車に乗り込み、発車したところで映画は終わるのです。

追い詰められているけど、死ななかった。という映画。この後のことを考えると、だんだん生気を失くしていく彼女が、そのまま毎日を過ごしていくんだろうなと思う。

場所が警察や収容所だということや、どうやら家政婦として別の家に通っているらしいことが、外国なのでわからなくて理解の妨げになってる。ただでも説明ナシのわかりにくい映画なのに。でも見え始めてくると、硬質で乾いた映画という良さが浮かび上がってくる。私は、この監督の作品もっと見てみたいなと思いました。 

ともしび(字幕版)

ともしび(字幕版)

  • 発売日: 2019/08/02
  • メディア: Prime Video