映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

濱口竜介監督「PASSION」2659本目

濱口監督は「ハッピーアワー」を見たのが初めてかな。5時間もある映画を劇場で見たなんて、私にしては根性がありました。あの映画にはびっくりした。素人みたいな人たちが演じるでもなく演じてるから、普段の生活の中みたいに、キスシーンを見てると照れる。惚れて晴れて、が生々しい。私はすごく高い評点を付けたのを覚えてます。

そういう監督の作品なので、有名な俳優があまり出てない卒業制作と聞いても期待は下がらない。むしろ見飽きかけてるいつもの人たちが出ない分、楽しみになります。

で、結果、これもまた面白かった。A子はB男が好き、B男はC子が好き、C子はD男が好き、D男はZ子が好き。愛のない結婚なのか、愛のないまま子どもが生まれるのか、でも愛ってなんだっけ。世の中の全てのものは偶然なのか。

とうてい何年も隠し事とかできなさそうな、のんびりゆったり流れるように暮らしてる男女が、ちょっと出来心で本音合戦を始める。この監督の作品って隠し事とゆるやかな暴露の映画なんだよな、いつも。いろんな秘密を持って生きているけど、こう刺激されたらこの人はどうなるのか、という興味で先を急いで見てしまう。この監督の映画が面白いのは、人間誰にでも何となく後ろ暗い部分があって、他人の後ろ暗い部分に惹かれる部分もあるからだろう。何もないような白いキレイな顔で暮らしていても、いつかは自分の中を覗き込んで本当のことを知る日がくる。

問題は、そこからなのだ。教師と研究者は結婚して、ろくでもないものどうし、わきまえて暮らして行けばいいんじゃないかなぁ。